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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)429号 判決 1997年4月25日

原告

宮本勲

被告

中山秀次

主文

一  被告は、原告に対し、七〇五万六九九六円及びこれに対する平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一八五〇万円及びこれに対する平成四年一二月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車を運転中の原告が、被告の運転する自動車に追突され傷害を受けたとして、被告に対し、不法行為に基づき損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1、4、6は当事者間に争いがない。2は甲第一三号証の二、三、乙第一一号証及び弁論の全趣旨により、3は甲第一三号証の二、三、第一四号証、乙第九ないし第一一号証、検乙第一号証の一ないし一一により、5は甲第二、第三号証、第四号証の一、二、第七号証及び弁論の全趣旨によりそれぞれ認められる。

1  被告は、平成四年一二月六日午後〇時一三分ころ、普通乗用自動車(和歌山三三せ七三八九、以下「被告車両」という。)を運転して大阪府藤井寺市沢田一丁目一三三番地の一先路上を進行中、前方で停止していた原告の運転する普通乗用自動車(和泉五二ぬ二七〇三、以下「原告車両」という。)の後部に被告車両の前部を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告が、前方不注視の過失により、進路前方に原告車両が停止していたのにその発見が遅れ、原告車両の手前約一五・五メートルに至つて急制動の措置を講じたものの、間に合わずに被告車両を原告車両に衝突させたというものである。

3  本件事故当時、原告車両は先行車両の約一メートル後方に停止していたが、被告車両に追突されたため前方に押し出され、先行車両に追突したうえ、もとの停止位置から約四・八メートル移動して停止した。これにより原告車両は前後のバンパーが凹損するなどの損傷を受け、修理費用として三八万一一〇〇円を要した。なお、本件事故によつて被告は負傷しなかつた。

4  原告は、本件事故後救急車で藤本病院に搬送され、平成四年一二月六日から平成五年一月一六日まで同病院に入院した後、青野整形外科医院に同月一八日から同年二月二日まで通院し、また、大阪南脳神経外科病院に同年一月二六日から二月四日まで通院、同月五日から七日まで入院、同月八日から同月一九日まで通院、同月二〇日から同年五月一五日まで入院、同月一六日から平成六年四月一六日まで通院して治療を受けた。

5  原告は、藤本病院では、初診時、頸部痛、両上肢に痺れがあり、右上肢に特に感覚鈍麻が強かつたものの、レントゲン写真上は異常はなく、頸椎捻挫と診断された。また、青野整形外科医院でも頸椎捻挫と診断され、同様の症状で頸椎牽引等の理学療法による治療を受けた。ところが、原告は、大阪南脳神経外科医院では、外傷性頸部症候群、頸椎ヘルニアと診断され、通院加療によつて理学療法による治療を受けたものの症状の回復は困難とされ、平成五年二月二二日に頸椎椎弓形成術(以下「本件手術」という。)を受けた。

6  原告は、平成五年八月末日症状が固定し(当時原告は四一歳)、自動車保険料率算定会調査事務所により自動車損害賠償保障法施行令二条別表障害別等級表(以下「障害別等級表」という。)一一級七号に該当する後遺障害が存するとの認定を受けた。

二  争点

1  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、本件手術の結果障害別等級表一一級七号に該当する後遺障害が残りこれにより労働能力の二〇パーセントを喪失した。原告は、本件事故前には症状はなく、原告の症状はすべて本件事故によるものである。

(被告の主張)

本件手術は原告に本件事故前から存した椎間板ヘルニア及び脊柱管狭窄症に対して行われたものであり、原告の症状が本件事故によつて発現したとしてもそれには原告の体質的素因が少なくとも四割は寄与しており、原告の全損害から四割を控除すべきである。また、本件手術後に原告に残つた症状は、せいぜい障害別等級一四級一〇号に該当する神経症状に過ぎず、その存続も五年間に限られるというべきである。

2  原告の損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告の後遺障害)について

1  前記第二の一の各事実に甲第四号証の一、二、第八号証、第一四号証、乙第一ないし第七号証及び証人伊原郁夫の証言並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告が本件事故後受診した藤本病院では、原告にはレントゲン写真で第六頸椎腔が一三ミリと狭少化が認められたが、ホフマン、二頭筋反射、三頭筋反射等の諸検査では異常は認められず、同病院では、原告に対し、原告の受けた傷害は頸部の捻挫による神経の一部損傷であり、神経の傷害は回復に時間がかかり、完全には回復しないこともあり、経過は半年ないし一年という期間でみる必要がある旨説明した。同病院では、平成六年一月一六日、通院は必要だが入院加療は要せず、徐々に復職は可能と診断し、原告の自宅に近い青野整形外科病院に原告を紹介した。このとき、原告には、両肘部の疼痛、右上肢尺骨側知覚異常が残つている状態であつた。その後、原告は、青野整形外科病院に通院したが、症状があまり変わらず、友人から大阪南脳神経外科病院の評判がよいときき、同病院を受診した。

(二) 大阪南脳神経外科病院では、原告は初診時両側尺骨側に痺れ感が持続、両上肢に振戦を伴う状態であり、レントゲン写真により第五、第六頸椎間で椎間板腔が狭いと認められ、また、MRIにより第五、第六頸椎間で椎間板ヘルニアにより脊髄が圧迫を受けていることが認められ、更に、ミエログラフイーによつても第五、第六、第七頸椎間に通過障害があると認められた。特に、第五頸椎の下後ろ角と第六頸椎の後突起の内面との間隔は非常に狭くなつており、通常脊柱管狭窄症と呼ばれる一三ミリを下回る一一ミリとなつていた。同病院の伊原郁夫医師(以下「伊原医師」という。)は、原告の訴える手の痺れは、第五、第六、第七脊椎間で頸髄腔が狭くなつていることによるものであり、ヘルニアを除去しても脊柱管狭窄症を伴うため内腔が狭く十分な減圧とはならず、二椎体に及ぶ減圧では固定のための期間を要し原告の負担も大きいと考え、原告には間欠性跛行もみられ症状の悪化も懸念されたことから、平成五年二月二二日、原告の第四、第五、第六椎弓を切除し、椎弓の間にレンジ板を装着して推弓を広くすることにより脊髄の除圧を行う椎弓形成術(本件手術)を施行した。本件手術後、原告には頸椎捻挫にみられる頸部の局所症状である頸や肩の痛みが残つたものの、上肢の両側尺骨側の痺れ及び振戦は消失した。

2  右の事実によると、原告は、本件手術を受けた結果、脊柱に変形を残す結果となり、障害別等級表一一級七号に該当する後遺障害が残つたものと認められる。しかし、証人伊原郁夫の証言によれば、本件手術後時間の経過により原告の脊椎の強度は通常の程度に復していること、本件手術は神経に一切触れるものではなく本件手術によつて神経症状に影響を与えることはなく、かつ、筋肉に悪い影響を与えることもありえないこと、本件手術が三椎体に対して行われたにとどまり、しかも、単に椎弓を切除したものではなく、椎弓の形成を行つており椎弓の変形を来すことはまずありえないことが認められる。しかも、原告に本件手術以前にあつた症状は、局部に頑固な神経症状を残すものとして障害別等級表一二級一二号に相当するものであつたと認められるところ、伊原医師は、原告の右症状を改善するために本件手術に踏み切り、かつ、これにより所期の目的を達したものと認められるから、本件手術によつてかえつて原告の労働能力が減少したものと認めることはできない。ただ、証人伊原郁夫の証言によれば、原告の頸椎は、力の必要な重労働を長時間続けるようなことには耐えられない状態であることも認められるから、以上の諸事情を考慮すれば、原告は、右後遺障害により、症状の固定した四一歳から就労可能と認められる六七歳までの間、労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

3  ところで、甲第八号証、第一四号証、証人伊原郁夫の証言によれば、原告には本件事故以前からヘルニア及び脊柱管狭窄症があつたものの、原告は本件事故以前には冬山を登山する等行つても不都合はない状態であり、右に起因する症状はなく、本件事故による衝撃を原因として、原告に両側尺骨側の痺れ感、両上肢の振戦、間欠性跛行の症状が発現したことが認められる。この点について、証人伊原郁夫は、原告のヘルニア及び脊柱管狭窄症が本件事故によつて発生した可能性も否定できないと供述するけれども、一方で、同証人の供述によれば、右供述の趣旨は、本件事故前の原告の脊椎の状態を明らかにする資料がなく、一般論として外傷によつてこれらが生じる場合もありうることを想定したものであることが明らかであり、かえつて、同証人は、原告の症状は交通事故を唯一の原因として発現したとは考えにくいと明確に証言していることに照らすと、原告の右症状が本件事故のみによつて発現したものと認めることはできない。

そうすると、本件事故によつて原告に発現した症状は、本件事故以前から原告に存したヘルニア及び脊柱管狭窄症が寄与しているものというべきであるところ、原告の右既往症の程度、本件事故の態様、本件事故によつて原告に顕れた症状、原告の後遺障害の程度等の諸事情に照らせば、右の寄与度は三割とするのが相当であり、損害の公平な分担の見地から民法七二二条二項を類推して原告に生じた損害からその三割を控除するのが相当である。

二  争点2(原告の損害)について

1  治療費 一一六万八五五四円(請求どおり)

甲第五号証、第九号証の一及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記入通院による治療費として合計一一六万八五五四円を負担したことが認められる。

2  看護費用 一六万三三八〇円(請求どおり)

甲第四号証の二、第九号証の一、乙第三号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、入院期間中の看護費用として一六万三三八〇円を要したことが認められる。

3  通院交通費 六万七一四〇円(請求どおり)

甲第六号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大阪南脳神経外科への通院に際し、電車を利用し、合計六万七一四〇円の交通費を負担したことが認められる。

4  入院雑費等 一六万九〇〇〇円(請求一八万二〇〇〇円)

弁論の全趣旨によれば、原告は、藤本病院及び大阪南脳神経外科入院中の合計一三〇日間に毎日雑費を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある損害は一日当たり一三〇〇円とするのが相当であるから、その合計は一六万九〇〇〇円となる。

5  治療器具代 一万八二二二円(請求どおり)

甲第二一号証によれば、原告は、頸椎装具代として一万八二二二円を負担したことが認められる。

6  休業損害 二一四万九〇五四円(請求どおり)

甲第九号証の一、第一〇号証、第一一、第一二号証の各一、二、第一九、第二〇号証の各二、第二二号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時丸豊電線株式会社に勤務していたが、本件事故により休業を余儀なくされそのため一六〇万七六四七円の給与の支払が受けられず、また、平成五年分の賞与が五四万一四〇七円減少したことが認められ、これらの合計二一四万九〇五四円は本件事故による損害と認められる。

7  逸失利益 九五八万七九八七円(請求一四一〇万二四四三円)

甲第一〇号証によれば、原告は、本件事故当時、丸豊電線株式会社に勤務し、平成四年には四一八万一三〇七円の年収があつたことが認められるところ、前記後遺障害により症状の固定した四一歳から就労可能と認められる六七歳までの間労働能力の一四パーセントを喪失したものと認められるから、右収入を基礎に右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告が労働能力の一部を喪失したことによる逸失利益の本件事故当時の現価は九五八万七九八七円となる(円未満切捨て)。

計算式 4,181,307×0.14×16.379=9,587,987

8  慰藉料 四六八万円(請求六〇〇万円)

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するためには、四六八万円の慰藉料をもつてするのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告が本件事故によつて受けた損害は一八〇〇万三三三七円となるところ、これより前記一のとおり三割を控除すると一二六〇万二三三五円となり、更に原告が自動車損害賠償責任保険から支払を受けた三三一万円及び被告から支払を受けた二八七万五三三九円(右各支払の事実は当事者間に争いがない。)の合計六一八万五三三九円を控除すると、残額は六四一万六九九六円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は六四万円とするのが相当であるから、結局、原告は、被告に対し、七〇五万六九九六円及びこれに対する本件事故の日である平成四年一二月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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